タイの自動車産業は50年以上前に誕生しました。以来、東南アジア最大かつ世界有数の自動車ハブへと発展してきました。2016年現在、タイは世界第13位の自動車生産国となっています。国内市場の規模という点でも、自動車コンポーネントのサプライヤーが集まるクラスターが確立しているという点でも、タイには強みがあります。自動車産業は、タイのGDPの12%近くを占めており、OEMとサプライヤー(Tier 1、Tier 2およびTier 3)を含め、50万人以上を雇用しています。日本のOEMが市場の85%を、米国のOEMが15%をそれぞれ占めています。

2016年、タイ政府は従来のエンジン排気量に代えて、二酸化炭素(CO2)の排出量、(エタノールを85%混合した)ガソホールE85への対応、燃料効率に基づく新たな物品税を導入しました。最大の影響を受けた車種は、SUVとピックアップトラックでした。2016年以降、消費者は新物品税が課されることになったため、駆け込み需要が増え、2015年後半の自動車販売は増加しました。
タイ政府はまた、一定期間の所得税免除、物品税還付、その他の税制優遇措置など、製造業者に対してエコカー生産を奨励しています。エコカーと同様、タイ政府は電気自動車(EV)も視野に入れています。2016年、タイ投資委員会(BoI)はEV生産奨励策として、電池式電気自動車(BEV)の輸入関税免除とBEV生産に対する優遇措置を決定しました。

タイの自動車クラスターは自動車企業などの集合体のことです。Tier1企業が700社、Tier2およびTier3企業が1,700社からなり、自動車産業全体の労働者の約80%を雇用しています。この労働者の多くはワーカーが占められており、こういったワーカーは工業団地の近隣の出身者になります。しかし、技術者などの雇用は工業団地から離れた地域などから働きにくることが多いです。
ワーカーと呼ばれる労働者は近隣の出身者が多いため、工場前の張り紙や友人・知人などの紹介でほとんどが集まります。技術者になると近隣の出身者から見つけることも出来ますが、多くは人材紹介会社などに依頼して集めることが多いです。

タイの自動車クラスターでの仕事を扱う人材紹介会社
https://kyujin.careerlink.asia/thailand(外部リンク:キャリアリンクタイランド)

タイ製の部品およびコンポーネントは、世界のOEMからその高い品質が評価されており、タイにおける組立部品全体の約85%を占めています。タイの自動車輸出の約75%は自動車部品、次いでエンジンや予備部品となっています。グローバルOEM部品サプライヤーの上位100社のうち50社以上が、タイに製造拠点を置いています。

2016年のタイの自動車生産と輸出は減少しましたが、国内販売は前年より増加しました。2017年の国内販売は前年比6.7%増となっています。ただし、石油価格の下落と世界経済の状況から、輸出は伸び悩みが予想されます。記録的な家計の負債や購買力の低下、貸付承認手続きの厳格化は、2017年の国内経済の回復に悪影響を与えることになるでしょう。
タイ政府は2011年に、自動車の初回購入者に物品税を払い戻す優遇措置(いわゆるファーストカー減税)を実施しました。その影響で2012年の自動車販売は急増したものの、翌13年には減少しました。政府の優遇措置は、購入した自動車の売却を5年間禁じていました。当時ファーストカー減税を利用した自動車購入者は、今年になってようやく売却が可能になりました。すでに自家用車を所有している者の多くも、より効率的な新型モデル(2016年に実施されたCO2排出量ベースの物品税制に対応した自動車)の購入を検討しています。OEM各社は、ファーストカー減税の恩恵を受けた30万人の購入者が毎年新車を購入するものと見込んでいます。需要の増加を期待する多くの日本の自動車メーカーも、新車購入検討者を魅了するより効率的な新型モデルの発売を2017年に予定しています。
CO2排出量ベースの新物品税制は、近い将来における環境配慮型自動車への移行を進める政府の取り組みの表れです。従来型のガソリン車よりも温室効果ガスの排出量が少ないエコカーの市場シェアは、2015年の35.7%から翌2016年には39.8%へと拡大しました。政府は、EVへの買い替え奨励策を講じ、EV普及のための充電ステーション等の支援基盤を整備する必要があります。
タイは近い将来も東南アジアにおける製造業の中心であり続けるでしょう。しかし成長を持続させるためには、研究開発に投資する必要があります。EVやエコカー、ハイブリッドなどの新技術への重点的な取り組みを通じて、タイは今後15〜20年以内に内燃機関の段階的廃止に徐々に進みつつある輸出先市場のニーズに応えられるようになるでしょう。